「住まいを豊かに」と「お、ねだん以上。」の関係。[D-Stadium編集部・企業インタビュー:株式会社ニトリホールディングス]
株式会社ニトリは1967年に創業し、2021年現在、国内に700店舗以上、そしてアメリカ、中国、台湾にも進出している家具・インテリアを扱うチェーン店。「お、ねだん以上。ニトリ」のフレーズはあまりにも有名だ。一方で企業サイトを開けると目に飛び込んでくる「住まいを豊かに」という想い。豊かさと価格の関係とは。株式会社ニトリホールディングスで広報ご担当の大江美幸さんにニトリの根っこの部分を伺いながら思考を巡らせた。
住まいの豊かさってそもそもなんだろう?
「住まいを豊かに」。
そう聞いて、想像するのはどんな住まいだろう?「住まい」が「豊か」になるってどういうことなんだろう?
大学で建築を学んでいた大江さんは就職活動中、就職イベントでたまたまニトリのブースに立ち寄る。約10年前の当時、ニトリの存在は知ってはいたものの、「当時はあまりニトリで買い物をしたことがありませんでした。けれども住まいを豊かにしたいという志に向かって成長し続けているところに惹かれて」入社を希望した。それから9年が経ち、「自分自身が欲しいと思う商品が増えたり、友人の家にニトリの商品があったりして、ニトリが掲げている『住まいの豊かさを世界の人々に提供する』というロマンにきちんと向かっているんだなと」日々実感していると言う。
インタビュー中、何度もでてくる「住まいを豊かに」のフレーズ。自分にとってどんな住まいが豊かなのか、考え込んでしまった。
「そうですよね。まさに社内でも、ニトリにとっての「豊かな暮らしとは何か」を言語化できないか、という動きがあったんです」
コーディネートは特別な人だけのもの、ではない。
「そもそもニトリのロマンは、創業者の似鳥昭雄が1972年にアメリカを訪れた時に目にした光景が原点なんです。当時の日本はちゃぶ台でご飯の時代。色やスタイルが統一されているなど、トータルにコーディネートされたアメリカの部屋は衝撃的だったそうです。しかも売られている商品の価格は日本の約3分の1。値段が安いからこそ、年齢や職業関係なく、誰もが簡単にそのような暮らしを手に入れられるところに感銘を受けて日本の住まいも豊かにしたい、そう思ったそうです」
そこから約50年。ニトリがずっと大事にしてきた『住まいを豊かに』という思いは変わらない。
「でも自分たちが考えている「豊かさ」って何なんだろう?果たしてどんな住まいをお客様に楽しんでいただきたいのだろう?ということを言語化して、きちんとお客様にお伝えすることこそが、ニトリの使命であり存在意義なのではないかと考える動きが出てきました。その中でニトリとしては、コーディネートを誰もが楽しめる暮らしこそが『豊かさ』なのではないか、と」
インテリアコーディネートは一部の特別な人だけのものではなく、誰もが気軽に楽しめるもの。そのことをお客様にお伝えするために「フィロソフィー ─ ニトリが目指すもの」としてこう掲げることになったそうだ。「コーディネートをみんなのものに」。
その言葉を聞いて、ふと、昔実家近くにできたニトリを思い出した。おしゃれな雑貨屋やインテリアショップがある都会から離れたニュータウンの住人にとって、ニトリができた時は大袈裟でなく衝撃を受けた。シンプルで家のインテリアに馴染む生活用品を、気軽に買いに行けるなんて。そうして布団カバーやスリッパ、風呂桶やハンガーなど、実家のいろんなものがニトリの商品に代わっていき、テイストが揃い、馴染んでいった。いつのまにか「コーディネート」が我が家にやってきていたのかもしれない。
言うなれば、「家庭料理」なのかも。
誰もがコーディネートを楽しめるように手に入れやすい価格で、というところから出発したニトリは、そこからさらに楽しめるスタイルの幅を広げたり、取り扱う商品の幅を広げたりと、進化をし続けていると言う。
「例えばベッドのマットレスは、中で使うウレタンやコイルまでニトリの海外工場で作っていますが、商品によってコイルの径や個数、ウレタンの種類を変えて、様々なタイプのマットレスを開発しています。特にマットレスにはこだわらない、という方から寝心地を追求したい方まで、いろんな方の暮らしを豊かにできたら、と。どんな価格帯でも価格以上のものを、というのは変わりませんが」
価格よし、品質もよし、となると、職人が作ったこだわりの家具やブランドはいつか用無しにならないのだろうか。学生時代からインテリアが何より好きだった私はたくさんのショップを思い浮かべた。
「私の意見ですが、それはないと思います。私自身の部屋のものも全てニトリの商品ではないですし、色々なお店をまわって見るのはやはり楽しいです。それは誰にとっても一緒じゃないかなと思うんです。ニトリも進化していますが、他のお店も同じくらい進化していますし、そうやってお互い切磋琢磨しあうことで、お客様の暮らしはますます豊かになっていくのかもしれませんよね」
特別で高級というよりは、誰もの日常に。そんなニトリの存在は、料理に例えると「家庭料理」なのかもしれない。たとえ、家庭料理がどれだけ美味しく豊かになろうとも、レストランがなくなることはない。むしろその逆で、世の中の家庭料理の偏差値が高くなればなるほど、人々の舌は肥え、レストランの存在価値は高くなる。そうやって、家庭料理の進化は料理の世界をより豊かにする。
ふと自分の10代の頃を思い浮かべた。思えばインテリアがまだまだ一部の人のものだったあの頃。インテリア雑誌に出てくる海外の部屋に憧れ、切り抜き、何度も眺めていた。クッションの並べ方、見たことのないカーテンレール、ダイニングテーブルとチェアのバランス、、、。全てにワクワクしつつも、別世界だと思っていた。それが今やどうだろう。手に入らないとため息をついていたような商品は身近になり、SNSには思い思いのインテリアに囲まれたたくさんの日常が溢れている。いつの間にか「別世界」はぐっと近づいていたのだ。だからもしかしたら、と期待を込めて思う。住まいの「家庭料理」の進化が、いつか連れて行ってくれるのかもしれない。あの頃の「別世界」どころか、思いもよらない地点まで。
中学生の取材を受けて
目の当たりにしたニトリの壁
価格が低い商品を作ることは、買い替えを招き、環境に良くないんじゃないか、という質問に改めて、「安い=品質が良くない」という固定概念を払拭したいと思いました。ニトリが取り組んでいる環境に配慮した商品開発をお客様に知っていただきたいですし、学生の皆さんがそのような視点で物事を見て考えているのは素晴らしいなと思いました。また同時に、ニトリの企業イメージについて、私自身、もう一度考える機会となりました。
■D-Stadium「編集の教室」に参加の中学生が書いた企業インタビュー記事は、こちらから。